web コンサート  クラシック音楽に関する疑問、質問、いちゃもん・・・?
 などを、思いつくままに 書き連ねてみたいと思います。

このサイトの趣旨とは異なりますが
youtube で非常に興味ある動画を見つけましたので、あえてご紹介します。


youtube より

<内田光子さんへのインタビュー>
〜 ドビュッシー 12の練習曲集について 〜


経験豊かな世界的ピアニスト内田光子さんの真摯な発言であり
ピアニストならずとも、ドビュッシーへの認識をあらたにせざるを得ない内容です。


Part 1;Part 2 に分かれています。それぞれ11分ちょっとです。

動画は、ここをクリックしてください

動画を見る時間が無い人のために、ちょっとだけ概要を・・・

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まず内田さんは楽器の調子を調べ、それからご自分のコンディションを整える
・・・と言われます。

ピアニストは、演奏する場ごとに楽器が違う

当たり前のことですが・・・

ほかの楽器ではバイオリンなどの弦楽器や管楽器はもちろん
大きいものではコントラバスやハープ
小道具や部品の多い打楽器など自分で持ち運ぶには大変ですけど
それでも自分の楽器を持ち運びます。

パイプオルガンもそうですが、ピアノは場ごとに楽器が違う。
だから、まずその楽器の調子を調べ、自分のコンディションをそれに合わせて調整する。
時には、それだけで一日が終わってしまうこともあるそうです。
これは、ほかの楽器には無いことですね。

・・・ちょっと横道にそれそうですが

内田さんはこう言われます。
ドビュッシーの練習曲はすでにピアノの弾ける人のためのものです。
指の練習のためではなく、運指の柔軟性を音楽的にいかすための練習曲です。

ドビュッシーの運指は、まったくひどいもので
ときにはアクロバットのような柔軟性が必要で、指の順序を変えることもあるそうです。

こんなことが コンサートで常にうまくいくものですか・・・?
という問いに対し

内田さんは、
"nein !!" と即座に否定されます。ただ そう願望するだけです。
・・・と !!

内田さんにしてこの言葉です。

もし弾きたいように表現してくれるすばらしい楽器があり
しかも自身が最高の状態にあれば可能です。
・・・と

ご自身数回完全にうまくいったことがあるそうですが、
何度も何度も練習しても、別のピアノに向かったら
また一から始めなくてはならない

<問い>
ドビュッシーは別種のピアノを使っていたのですか・・・?

<内田さん>
"leicht !!" ずっと軽い楽器をね!!

今のコンサートピアノの問題点は、その(アクションの)重さにあると言います。
大きなホールで大きな響きを出せるような大きな楽器。

ショパンの時代のピアノなど鍵盤が浅くてとても軽い。
そういう楽器でショパンのエチュードを弾くと、実に美しい音が出るそうです。

この(ビデオで使っている)楽器などは、ドビュッシーの使っていたピアノと比べて
ほぼ二倍くらい重いのでは・・・


<問い>
ドビュッシーは誰のためにこの練習曲を書いたのか・・・?

<内田さん>
( 7分くらいから ここらへんで内田さんの語り口はかなり熱くなります)
彼はかなり優秀なピアニストでした。
彼はピアノの可能性を熟知しており、一歩間違えれば弾けなくなるぎりぎりの線を行っている
本番では、何を考えても役に立たない・・・
実際 30% は失敗に終わります。頭と運指の柔軟さが必要です。
急にまったく予期しなかったことがわき上がる
これは、ピアニストも弾く前から期待してはならないことです。

もしこれが普通の練習曲だったら、自動的に(指を)動かせばいいんです。
でもドビュッシーは何一つ自動的には行かないんです。

<問い>
リストやショパンの練習曲との違いは・・・?

<内田さん>
ショパンのほうがピアニスティックな
例えば持久力のための練習曲を多く書いたと思います。
ところがドビュッシーは、まったく別の音楽の世界・・・
頭脳のため まず彼は作曲家として書いたのだ・・・と思います。

ここから<Part 2>

彼は、ピアニスティックな問題を作曲家の問題に置き換えようとしたのだと思います。
彼の音楽に必要な柔軟性、軽やかさ、音色の多様性、ペダルの使用
さらには、鍵盤上での驚くべき自由さを得るためだった・・・
平凡なアイディアを元にそこから美しい音楽を作り出すという
アイディアに取り付かれていたように思います。

日本の五音音階に似たところもありますが、
(例えば四度を多用するなどして)
もっと柔軟な別の世界を作り上げようとしています。
それは、祖国の無い音楽ではなく 彼自身はフランス人であることを強く意識していた。
(ここらで内田さんの表情がやわらぐ・・・)
特に1915年頃 戦争(第一次世界大戦)のさなかで
決して祖国の無い音楽でなく、むしろまったく自由な音楽であり
純粋に音楽心理的に見たら、非常に自由な独立的な音楽であると思います。

ヨーロッパの音楽は 全音音階(七つの音からなる音階)から成り立っており
例えばハ長調、ハ短調などから自由に転調できます。
こうした長調・短調の支配下に長いこと置かれていました。

それが、1900年頃 シエーンベルクなどの変わった人が出て
皆が 何か新しいものを探していたんです。

ところがドビュッシーは自分で新しいシステムを発明する必要が無かったと言う点が面白い
シエーンベルクは何らかのシステム(十二音音階の技法)が必要で、これは大変ドイツ的です。

ドビュッシーの方は何ら構築する必要がすら無く
すべて既存のものをまったく自由に使いこなせた人です。

主音は・・・例えばハ長調なら 嬰ヘ短調へ行こうが 遠くに行けば行くほど
我が家が恋しくなるのと同じで、必ず最後にはまた主音に帰ってくるのです。

<問い>
ドビュッシーはこう言っています。
「私はどこかへ行きたいという願望と旅立つことへの不安とを同時に心の中に持っている」と
こういうドビュッシーの優柔不断さは、生活や音楽の中に見られますか?

<内田さん>
それは、優柔不断さというより自由に対する愛・・・もしかしたら
たとえ幻想にすぎなくとも自由であることを愛する・・・
という気持ちではないのかしら?

生活の上ではともかく音楽の上では これは幻想ではなく
どこへも所属しなくてよいと言う状態への愛着

それを彼は音楽の中に 儀礼上調号と言う形で示しており
私自身はそれをたいへん魅力的に感じています。

<問い>
これはドビュッシーの生涯とも関係があるのか
それとも音の遊びだけ?

<内田さん>
彼は個人的感情を音楽の中に、シューベルトほどには 表現していないと思います。
彼の人間性と切り離すことはできません。
彼の音楽を聴くと、 内なる衝動・・・欲求・・・それも・・・
ほとんど肉体的な情緒的欲求から作曲した・・・
という感じを受けます。
(少しだけ、未完成交響曲の冒頭部分 6分50秒くらい この部分を聞くとシューベルトは
この曲をオーケストラではなく ピアノのために書いたのではないかと感じられる
もちろん彼は 作曲するときピアノを使ったのであろうが・・・)

これは とても頭脳から創造したとは思えません。
私の受ける感じでは、彼の内にあるもの・・・
内面性から創造されたものです。

ドビュッシーのほうは、アイディア・・・
知的な理念 それが彼を駆り立てる・・・
私の考えるところでは、こうしたアイディアで遊ぶ・・・
プレイすることに大きな喜びを感じていたようです。
そして それは とても20世紀風なのです。

<問い>
彼は、他人のことも揶揄しているのでは・・・?

<内田さん>
Ahh・・・
例えば、彼はエチュードの冒頭部分を たとえばチェルニーをからかう形で始めています。
(チェルニーの音階練習を少し弾いて・・・)平凡でなんとも言えず反美的・・・

ここでドビュッシーは "sagemet" (賢明に お行儀よく)と指示しています。
すると突然 As(ラのフラット 通常こういうことは考えられません。)の音が響きます。
ほかの音だと、心臓に"グサリ!!" ときますが、As だとそれほどでもありません。
たった五つのそれも単純で退屈な音から始まり、そしてファンタジーが広がる

これがもしモーツァルトならぞっとするような恐ろしさがある。
ここでは その片鱗すらなく ただひたすら面白い・・・ 喜びに満ちている・・・
この5音によって "退屈しきっている" 世界へ移り
そして五つの音から遊びの世界が創造されていくのです。

<問い>
同国人で偉大な指揮者で作曲家であるピエール・ブーレーズはドビュッシーのことを
"19〜20世紀のフランスの生んだ 唯一の世界的な音楽家である" といっています。

<内田さん>
私も最も強い人だったと思います。
このアイディアの豊かさ・・・
彼はエチュードの中にすべてを投入しており
そして それを すべて空中に放り出し
音楽が そのまま空中に とどまって
こんなにも美しい世界を創りだしているのです。
(このときの内田さんの表情は、喜びに満ち溢れ, あたかも自分自身が空を飛び交っているかのようでした。)

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以上拙い国語力で、私見・偏見がたぶんに含まれているかと思われますが、

ご容赦のほどを・・・文責 古賀幸利

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2012年8月22日更新